真菌感染症に関わるCARD9遺伝子変異は東アジアで共通

2025年3月21日 公開

「創始者効果」による可能性、真菌感染症リスクを高める遺伝的基盤を解明

どんな研究?

真菌感染症は病原性を持つ真核菌類(いわゆるカビ)が引き起こす感染症のことで、重要な臓器や中枢神経系に感染した場合、生命を脅かすこともあります。ヒトが持っているCARD9と呼ばれる遺伝子は、真菌に対する免疫応答に重要な役割を果たすことが知られています。この遺伝子の塩基配列に変異が生じて機能を失うと、真菌感染症にかかりやすい先天性免疫異常症を発症します。この病気は、北アフリカ、中東、中国からの報告が多い一方で、日本や韓国からは数例ずつしか報告がありません。こうした地域ごとの症例数の偏りについてはこれまで原因がわかっていませんでした。

大学院医歯学総合研究科小児地域成育医療学講座金兼弘和寄附講座教授と友政弾大学院生らの研究チームは、日本や韓国の真菌感染症を発症した先天性免疫異常症の患者がもつCARD9遺伝子を解析し、各地域の患者で違いがあるかを調べました。その結果、北アフリカや中東の患者がもつCARD9遺伝子の変異タイプと、韓国、日本人の患者のCARD9遺伝子の変異タイプは異なっており、中国の患者がもつCARD9遺伝子の変異タイプと同じであることが分かりました。さらに、CARD9遺伝子近傍の遺伝子配列を調べることによって、この遺伝子変異が2000-4000年前に中国北部で発生した可能性が高いことも突き止めました。

東アジアで認められたCARD9遺伝子変異の創始者効果を同定

ここが重要

東アジアにおいて同じ変異タイプが多く見られる背景には、「創始者効果」と呼ばれる遺伝的現象が関与している可能性が示唆されました。これは、少数の先祖から派生した集団において、その先祖が持っていた遺伝的特徴が子孫に繰り返し受け継がれる現象です。

一方、同じ変異タイプであるにも関わらず、中国人患者と、日本人・韓国人の患者では感染する真菌の種類は異なることが示唆されました。この違いは生活習慣の違いや環境的な要因によるものと考えられます。

今後の展望

遺伝子のわずかな違いがヒトの真菌感染症に与える影響を明らかにすることで、予防や治療に向けて新しい指針を与えることが期待されます。また、病気の発症には遺伝的要因やヒトの移動、環境条件などさまざまな要因が複雑に相互作用していることを示す成果であり、分野の垣根を超えたアプローチの重要性を強調するものです。

研究者のひとこと

日本人や韓国人の起源や移動の歴史と、今回の研究結果で得られたデータが矛盾しないことがわかりました。この研究が人類学、遺伝学、医学分野などさまざまな研究分野に対して横断的に貢献できることを期待しています。

金兼弘和寄附講座教授

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